前回の続きです。
続き物のドールコントですので前回をお読みでない方は、その1~5を
先にお読みになってからご覧ください。

6回に渡りお送りした、このシリーズも今回で最終回です。
またいつものように長編になってしまいましたが、もう少しだけ、このつたない話に
お付き合い願えればと思います・・・。 バタン・・・
風歌「ふぅ・・・・。」

風歌「さて・・・熱いシャワーでも浴びようかな・・。」

風歌「・・・・・・・・。」

スッ・・・

バタン・・・
シャーーーー・・・・

そして15分後
ガチャッ・・・

スッ・・・・ドサッ!

カチッ・・・←部屋のライトを消した
風歌「・・・・・・・・・・・・。」

風歌「さて・・・夕食は何にしようかな・・・。
お昼はスギケンさんの家で秋刀魚の塩焼きをご馳走になったから、
夜はパスタにでもしようかしら。」

風歌「その前に・・・少し・・・・。」

すーーーー・・・すーーーー

数日後
風歌の日記
(風歌の事件簿 ファイルNo.199より抜粋)
4月5日(日)********************************************************
スギケンさんの家を飛び出した私は、まずルネさんの足取りを辿る事にした。
ルネさんの話だと結構頻繁に散歩しているとの事なので、近所の住人に聞けば
彼女の散歩コースはなんとなく掴めるであろう。
近所の住人の聞き込みから、ある程度彼女の散歩コースは分かった。
多少例外はあるものの彼女の散歩コースは大まかに分けて3コース。
1. 近所の工場脇から商店街に向かい最後にその先の公園を一周して戻ってくるコース
2. 近所の工場を迂回して商店街に向かい馴染みの本屋で漫画の立ち読みをして
戻ってくるコース
3. 1.2とは反対方向にある森を抜けて、その先にある私達の通学している学校の校庭の前を
通り、最後に河原のサイクリングロードを一周して戻ってくるコース
それでは次のステップに移る事にしよう。
事件当日 4月4日の彼女の足取りだ。
誰か彼女を見かけた人物がいないか探し回る。
もしかしたら、上記でも述べているように、いつもの散歩コースとは例外的に
別のコースをその日だけ取ったかもしれない。
そして探した結果、遂に事件当時の彼女を見かけた人物を見つける事が出来た。
彼が言うには、どうやら森の方向に向かっていったらしい。
つまり上記のコースでいうところの3番だ。
これで幸いにも、ある程度道筋の絞込みが出来る。
1と2は似通っているので、更にどちらなのか調べなければならないが、
森方面なら3番で間違いないだろう。
慣れ親しんだコースを突発的に変えた可能性も否定できないが、
おそらくその日も3番のコースを辿ったと思われる。
では、早速その道筋を実際に辿ってみる事にしよう。
森に向かう。
森の中には一本の開けた道があり、ケモノ道という訳ではない。
この道を真っ直ぐ抜ければ、自然と学校の手前に辿り着く。
私の家はこの周辺ではないので、私は普段通学にこの道を使った事は無い。
ん? なんだろう・・・ちょっと不自然というか違和感を感じる・・・。
でも結局その違和感の原因は掴めないまま森を抜けてしまった。
学校周辺に着いたので、部活で学校に来ている数名の生徒に聞き込みをした。
思った通りだ。
やはり数名の生徒が事件当日、彼女が校庭周辺を歩いていたのを見かけている。
このコースでおおむね間違いない。
となると最後の目的地は河原のサイクリングロードになるんだけど・・・
歩みを進める私は、サイクリングロードに繋がる橋の手前、
その道路脇で妙なものを見つけてしまった。
私の脳裏にひとつの仮説が組みあがる。
もしかしたら・・・・
ザッザッザッザッ・・・
橋の下の河原周辺に生えている雑草に分け入りその周辺をくまなく探す。
・・・・・・・あった。
帽子はそこにあった。
やっぱり・・・・そういう事なんだね。
さっき森で感じた違和感・・・あれは。
帽子を小脇に抱えた私は、ゆっくりと森に向かって歩みを進める。
願わくばこの違和感が私の勘違いでありますように・・・・。
そしてしばらくして、私はまた鬱蒼と茂った森に戻ってきた。
違和感を感じた場所に向けて進んでいく。
あった。
それは人間の拳二つ分ほどの石。
綺麗に開けた道に妙に目立つ大きめの石がひとつだけポツンとあったから
さっきは気になったんだ。
座り込んでその石を見る。
・・・・・・・・・・・・・。
そこには汚く削り取られているものの、はっきりと読める文字で
こう書かれていた。
ミカの墓
・・・・・・私の頭の中にあった仮説が、悲しい事に間違っていない事を
この時、私は悟った。
さっきサイクリングロード付近の道路脇で見かけたのは、車が急ブレーキをかけた跡。
そして僅かに残った血痕・・・。
おそらく彼女はこの日も仲良しの猫、ミカと一緒に散歩していたのだろう。
そして河原周辺で不幸にもミカが車に轢かれてしまった。
慌てた彼女は急いでなんとかしようと努力したのだろう。
あまりに慌てていたので帽子が飛ばされた事にも彼女は気付かなかった・・・・。
必死だったんだろう・・・・・。
それは再び戻った学校での聞き込みで知る事が出来た。
慌てる彼女を見かけたという女子生徒の二人組がいたのだ。
生徒の話はこうだ。
当日、生徒が校庭でテニスの練習をしていると、慌てた彼女が駆け寄ってきて
こう言ったらしい。
「携帯電話を貸して欲しい」と。
でも生徒は練習で忙しかった為、煩わしく感じて彼女を無視したらしい。
・・・・この話を聞いて、“もしあなたが貸してあげていれば・・・。”
と少し思ってしまったけど、仕方が無いよね・・・。
この生徒も事情を知らなかった訳だし、知らない子に声を掛けられて、抵抗もあったのだろう。
うん・・・状況から考えると獣医さん・・・もしくはスギケンさんに連絡を取ったとしても
助かった可能性は残念ながら低いと思う・・・。
・・・・・「ありがとう」と言って立ち去ろうとする私の背後から、
女子生徒二人のこんな声が聞こえてきた。
「でも、あの子、なんかオロオロしてアホみたいだったよね~。」
「はは、それ確かに言えてる~♪」
「なんか汚い猫も抱えてたみたいだしさ~。」
「そんな奴に自分の携帯貸せるかっての。」
「だよね~。」
「あんまりしつこいからさ~、恵子が無視して離れてから
私、思いっきり睨みつけてやった。w」
「あ~、そうだったんだ。」
「そしたらあの子、下向いて泣きそうな顔してやんの。」
「マジで? 超ウケる~。ww」
「・・・・・・・・・・。」
あんたらが事情を知らなかったのは分かってる・・・分かってるけどさ・・・
ギュッ・・・
私は思わず拳を握り締めていた。
はは・・・大人気ないよね。でも駄目なんだ私こういうの。
「2年A組 菅原貴子さん、井上恵子さん、あなた達いつも4時間目の授業中に抜け出して
購買部で人気のあるパンを買いにいっているわよね?
今後も続くようなら指導させてもらうわよ。」
「ちょ・・・あんたなんで私達の名前知ってんのよ、気持ち悪いわね。」
私の頭の中には全校生徒のある程度の情報が入っている。
「大体なんであんたに上から目線でそんな事を注意されないと
いけない訳? あんた何様だって~のよ!?」
「くす、これでも生徒会長なんでね。」
「・・・あ!・・・まさかあの有名な・・・・。」
そういうと生徒はバツが悪そうに「失礼します・・・。」と小声で言って去っていった。
・・・・・・・・・・。
経緯はともかく、ミカは死んでしまった。
悲しんだ彼女は、いつも二人で歩いた静かな森の道の小脇に彼女を埋めたんだろう。
家に戻った彼女は、きっと泣き崩れたに違いない。
あの壁の引っかき傷は、仲良しの友人を失った悲しみから彼女が
自分で付けたものと見て間違いない。
その音は昨晩の強風のせいでスギケンさん達の耳には届かなかったようだけど・・・・。
そして彼女は思ったのだ。
ミカが死んだ日の記憶なんかいらない・・・と。
そして・・・翌日、目を覚ました彼女は、自らが望む通り記憶を失っていた・・・。
彼女にとっての前日は・・・いつも通り、午後からミカと楽しく散歩した日・・・。
・・・ここで私が彼女の元に戻って真実を告げる必要はないだろう。
ミカには悪いけど、今は忘れていた方がきっと彼女も幸せに違いない・・・。
ミカ・・・ごめんね・・・。
でも、乾いていない傷を無理やり開く事はないと思うの・・・・。
突然いなくなったあなたをルネさんは一生懸命探すでしょうね・・・。
その姿を見るのはとても辛いけど・・・。
これから自宅に戻って帽子を入れるバッグを取ってこよう。
そして・・・・この帽子を、そっと彼女に戻してあげよう・・・。
抜粋終わり
続き物のドールコントですので前回をお読みでない方は、その1~5を
先にお読みになってからご覧ください。

6回に渡りお送りした、このシリーズも今回で最終回です。
またいつものように長編になってしまいましたが、もう少しだけ、このつたない話に
お付き合い願えればと思います・・・。 バタン・・・
風歌「ふぅ・・・・。」

風歌「さて・・・熱いシャワーでも浴びようかな・・。」

風歌「・・・・・・・・。」

スッ・・・

バタン・・・
シャーーーー・・・・

そして15分後
ガチャッ・・・

スッ・・・・ドサッ!

カチッ・・・←部屋のライトを消した
風歌「・・・・・・・・・・・・。」

風歌「さて・・・夕食は何にしようかな・・・。
お昼はスギケンさんの家で秋刀魚の塩焼きをご馳走になったから、
夜はパスタにでもしようかしら。」

風歌「その前に・・・少し・・・・。」

すーーーー・・・すーーーー

数日後
風歌の日記
(風歌の事件簿 ファイルNo.199より抜粋)
4月5日(日)********************************************************
スギケンさんの家を飛び出した私は、まずルネさんの足取りを辿る事にした。
ルネさんの話だと結構頻繁に散歩しているとの事なので、近所の住人に聞けば
彼女の散歩コースはなんとなく掴めるであろう。
近所の住人の聞き込みから、ある程度彼女の散歩コースは分かった。
多少例外はあるものの彼女の散歩コースは大まかに分けて3コース。
1. 近所の工場脇から商店街に向かい最後にその先の公園を一周して戻ってくるコース
2. 近所の工場を迂回して商店街に向かい馴染みの本屋で漫画の立ち読みをして
戻ってくるコース
3. 1.2とは反対方向にある森を抜けて、その先にある私達の通学している学校の校庭の前を
通り、最後に河原のサイクリングロードを一周して戻ってくるコース
それでは次のステップに移る事にしよう。
事件当日 4月4日の彼女の足取りだ。
誰か彼女を見かけた人物がいないか探し回る。
もしかしたら、上記でも述べているように、いつもの散歩コースとは例外的に
別のコースをその日だけ取ったかもしれない。
そして探した結果、遂に事件当時の彼女を見かけた人物を見つける事が出来た。
彼が言うには、どうやら森の方向に向かっていったらしい。
つまり上記のコースでいうところの3番だ。
これで幸いにも、ある程度道筋の絞込みが出来る。
1と2は似通っているので、更にどちらなのか調べなければならないが、
森方面なら3番で間違いないだろう。
慣れ親しんだコースを突発的に変えた可能性も否定できないが、
おそらくその日も3番のコースを辿ったと思われる。
では、早速その道筋を実際に辿ってみる事にしよう。
森に向かう。
森の中には一本の開けた道があり、ケモノ道という訳ではない。
この道を真っ直ぐ抜ければ、自然と学校の手前に辿り着く。
私の家はこの周辺ではないので、私は普段通学にこの道を使った事は無い。
ん? なんだろう・・・ちょっと不自然というか違和感を感じる・・・。
でも結局その違和感の原因は掴めないまま森を抜けてしまった。
学校周辺に着いたので、部活で学校に来ている数名の生徒に聞き込みをした。
思った通りだ。
やはり数名の生徒が事件当日、彼女が校庭周辺を歩いていたのを見かけている。
このコースでおおむね間違いない。
となると最後の目的地は河原のサイクリングロードになるんだけど・・・
歩みを進める私は、サイクリングロードに繋がる橋の手前、
その道路脇で妙なものを見つけてしまった。
私の脳裏にひとつの仮説が組みあがる。
もしかしたら・・・・
ザッザッザッザッ・・・
橋の下の河原周辺に生えている雑草に分け入りその周辺をくまなく探す。
・・・・・・・あった。
帽子はそこにあった。
やっぱり・・・・そういう事なんだね。
さっき森で感じた違和感・・・あれは。
帽子を小脇に抱えた私は、ゆっくりと森に向かって歩みを進める。
願わくばこの違和感が私の勘違いでありますように・・・・。
そしてしばらくして、私はまた鬱蒼と茂った森に戻ってきた。
違和感を感じた場所に向けて進んでいく。
あった。
それは人間の拳二つ分ほどの石。
綺麗に開けた道に妙に目立つ大きめの石がひとつだけポツンとあったから
さっきは気になったんだ。
座り込んでその石を見る。
・・・・・・・・・・・・・。
そこには汚く削り取られているものの、はっきりと読める文字で
こう書かれていた。
ミカの墓
・・・・・・私の頭の中にあった仮説が、悲しい事に間違っていない事を
この時、私は悟った。
さっきサイクリングロード付近の道路脇で見かけたのは、車が急ブレーキをかけた跡。
そして僅かに残った血痕・・・。
おそらく彼女はこの日も仲良しの猫、ミカと一緒に散歩していたのだろう。
そして河原周辺で不幸にもミカが車に轢かれてしまった。
慌てた彼女は急いでなんとかしようと努力したのだろう。
あまりに慌てていたので帽子が飛ばされた事にも彼女は気付かなかった・・・・。
必死だったんだろう・・・・・。
それは再び戻った学校での聞き込みで知る事が出来た。
慌てる彼女を見かけたという女子生徒の二人組がいたのだ。
生徒の話はこうだ。
当日、生徒が校庭でテニスの練習をしていると、慌てた彼女が駆け寄ってきて
こう言ったらしい。
「携帯電話を貸して欲しい」と。
でも生徒は練習で忙しかった為、煩わしく感じて彼女を無視したらしい。
・・・・この話を聞いて、“もしあなたが貸してあげていれば・・・。”
と少し思ってしまったけど、仕方が無いよね・・・。
この生徒も事情を知らなかった訳だし、知らない子に声を掛けられて、抵抗もあったのだろう。
うん・・・状況から考えると獣医さん・・・もしくはスギケンさんに連絡を取ったとしても
助かった可能性は残念ながら低いと思う・・・。
・・・・・「ありがとう」と言って立ち去ろうとする私の背後から、
女子生徒二人のこんな声が聞こえてきた。
「でも、あの子、なんかオロオロしてアホみたいだったよね~。」
「はは、それ確かに言えてる~♪」
「なんか汚い猫も抱えてたみたいだしさ~。」
「そんな奴に自分の携帯貸せるかっての。」
「だよね~。」
「あんまりしつこいからさ~、恵子が無視して離れてから
私、思いっきり睨みつけてやった。w」
「あ~、そうだったんだ。」
「そしたらあの子、下向いて泣きそうな顔してやんの。」
「マジで? 超ウケる~。ww」
「・・・・・・・・・・。」
あんたらが事情を知らなかったのは分かってる・・・分かってるけどさ・・・
ギュッ・・・
私は思わず拳を握り締めていた。
はは・・・大人気ないよね。でも駄目なんだ私こういうの。
「2年A組 菅原貴子さん、井上恵子さん、あなた達いつも4時間目の授業中に抜け出して
購買部で人気のあるパンを買いにいっているわよね?
今後も続くようなら指導させてもらうわよ。」
「ちょ・・・あんたなんで私達の名前知ってんのよ、気持ち悪いわね。」
私の頭の中には全校生徒のある程度の情報が入っている。
「大体なんであんたに上から目線でそんな事を注意されないと
いけない訳? あんた何様だって~のよ!?」
「くす、これでも生徒会長なんでね。」
「・・・あ!・・・まさかあの有名な・・・・。」
そういうと生徒はバツが悪そうに「失礼します・・・。」と小声で言って去っていった。
・・・・・・・・・・。
経緯はともかく、ミカは死んでしまった。
悲しんだ彼女は、いつも二人で歩いた静かな森の道の小脇に彼女を埋めたんだろう。
家に戻った彼女は、きっと泣き崩れたに違いない。
あの壁の引っかき傷は、仲良しの友人を失った悲しみから彼女が
自分で付けたものと見て間違いない。
その音は昨晩の強風のせいでスギケンさん達の耳には届かなかったようだけど・・・・。
そして彼女は思ったのだ。
ミカが死んだ日の記憶なんかいらない・・・と。
そして・・・翌日、目を覚ました彼女は、自らが望む通り記憶を失っていた・・・。
彼女にとっての前日は・・・いつも通り、午後からミカと楽しく散歩した日・・・。
・・・ここで私が彼女の元に戻って真実を告げる必要はないだろう。
ミカには悪いけど、今は忘れていた方がきっと彼女も幸せに違いない・・・。
ミカ・・・ごめんね・・・。
でも、乾いていない傷を無理やり開く事はないと思うの・・・・。
突然いなくなったあなたをルネさんは一生懸命探すでしょうね・・・。
その姿を見るのはとても辛いけど・・・。
これから自宅に戻って帽子を入れるバッグを取ってこよう。
そして・・・・この帽子を、そっと彼女に戻してあげよう・・・。
抜粋終わり